コイル塞栓術におけるステアリングマイクロカテーテルの有用性:機能的単心室1歳児例での使用経験
1 あいち小児保健医療総合センター循環器科
2 あいち小児保健医療総合センター新生児科
症例は完全型房室中隔欠損症,右室低形成,肺動脈狭窄,大動脈騎乗,第5大動脈弓遺残,単心室修復適応と診断された1歳6か月の女児.Glenn手術後の体肺側副動脈に対しコイル塞栓術を行った.右内胸動脈へのアプローチは,下行大動脈から低位の大動脈弓に沿って上行大動脈に下向させ,次に単独で起始する右鎖骨下動脈へ上向させたのち,さらに急峻に屈曲した右内胸動脈へ下向させるカテーテル走行が求められた.ガイドワイヤーを併用しても親カテーテルを右内胸動脈に挿入できなかった.先端非可動の従来型マイクロカテーテルと先端形状をカールさせたガイドワイヤーを用いても挿入不能であった.先端可動型のステアリングマイクロカテーテルに変更すると容易に挿入可能で,これをガイドに親カテーテルを右内胸動脈近位部までスムーズに進め,安定留置したのちコイル塞栓術を施行した.
ステアリングマイクロカテーテルは従来挿入な困難な標的血管への挿入や親カテーテルの安定留置を可能とし,操作時間短縮,被爆軽減にも貢献する可能性がある.今後,様々な用途への応用が期待される.
Key words: Steerable microcatheter; transcatheter coil embolization; aortopulmonary collateral artery; single ventricle; Glenn/Fontan physiology
© 2018 日本Pediatric Interventional Cardiology学会
先天性心疾患,特に機能的単心室症例において,体肺側副動脈や静脈-静脈短絡に対して経カテーテルコイル塞栓術を行うことが多い.深部局所の細かい血管にマイクロカテーテルを到達させるには,複雑な分岐部や屈曲部を超えるために長時間を要することがある.またマイクロカテーテルを用いて安全にコイル塞栓術を行うためには,親カテーテルの安定留置が必要である.
近年,世界初の先端可動型マイクロカテーテルとしてステアリングマイクロカテーテルが開発され,本邦では2016年4月に販売開始された.ステアリングマイクロカテーテルは手元ハンドルのダイヤル操作によりカテーテル先端を最大約180°屈曲でき(Fig. 1),急峻に曲がる分枝血管など従来挿入困難であった血管への挿入が可能となることが期待される.販売されて間もないためその使用経験の報告は成人領域においても少なく,小児領域では我々の知る限りない.体肺側副動脈のコイル塞栓術を行う際,親カテーテルの挿入・安定留置にステアリングマイクロカテーテルが有用であった1歳児症例を経験したため報告する.
症例は完全型房室中隔欠損症,右室低形成,肺動脈狭窄,大動脈騎乗,第5大動脈弓遺残の診断で,単心室修復適応と判断された女児.生後1か月時に右Blalock-Taussigシャント術を,3か月時に両方向Glenn術を施行した.Glenn手術後の経皮的酸素飽和度は90%前後(経鼻酸素1 L/分)であった.10か月時の心臓カテーテル検査ではGlenn吻合からの左肺動脈血流が非常に乏しい状態であった.下行大動脈からの圧迫による左下肺静脈狭窄および左肺への体肺側副動脈がその原因と判断した.1歳1か月時に大動脈吊り上げ術により左肺静脈狭窄を解除し,1歳3か月時に体肺側副動脈へのコイル塞栓術を計画した.大動脈造影では左肺全体へ向かう無数の体肺側副動脈がみられ,左肺動脈への血流が一部右肺動脈へ逆行する所見であった(Fig. 2a, 2b
).左内胸動脈に9個,左鎖骨下動脈分枝に15個のデタッチャブルタイプのマイクロコイルを用い塞栓術を行った.1歳4か月時,1歳5か月時にも同様に左内胸動脈分枝(7個),左鎖骨下動脈分枝(7個),右肋間動脈(5個)のコイル塞栓術を施行した.
1歳6か月(体重10.3 kg)時,さらに右内胸動脈のコイル塞栓術を計画した.大動脈弓は第5大動脈弓遺残であり,大腿動脈から右内胸動脈への逆行性アプローチではカテーテルを次のように進める必要があった.下行大動脈から低位の大動脈弓に沿って上行大動脈に下向させ,次に単独で起始する右鎖骨下動脈へ上向させたのち,さらに急峻に屈曲した右内胸動脈へ下向させるカテーテル走行が求められた(Fig. 3).0.035 inchガイドワイヤーを通した4Fr.右ジャドキンスカテーテル(JR2.0)を上述のごとく進めると,右鎖骨下動脈までは容易に到達するもののJR2.0先端を足側に向けることが困難で,ガイドワイヤーを右内胸動脈に挿入することはできなかった.次に右鎖骨下動脈内で先端が頭側に向いた状態のJR2.0を親カテーテルとして,先端非可動の従来型マイクロカテーテルと0.018 inchガイドワイヤーを用い右内胸動脈への挿入を試みた.しかし先端形状をカールさせたガイドワイヤーが起始部にわずかにかかるのみで,マイクロカテーテルを右内胸動脈に挿入することはできなかった.
マイクロカテーテルを先端可動型のステアリングマイクロカテーテルに変更した.右鎖骨下動脈に留置した親カテーテル(JR2.0)の先端が頭側に向いた状態で,ステアリングマイクロカテーテルを右内胸動脈起始部まで進めた.その部位で先端を足側に曲げると,容易にガイドワイヤーを右内胸動脈内に挿入することが可能となり,さらにステアリングマイクロカテーテルを押し進めるとスムーズにガイドワイヤーに追従した(Movie 1).ステアリングマイクロカテーテルおよびガイドワイヤーを右内胸動脈遠位まで進めると,これをガイドにJR2.0を右内胸動脈近位部まで十分に挿入させられ(Movie 2),親カテーテルの安定留置が可能となった(Fig. 4).
ステアリングマイクロカテーテルを右内胸動脈分枝まで進め,水圧式デタッチャブルタイプの0.012 inchマイクロコイル(5個)を用いて塞栓術を行った.ステアリングマイクロカテーテル先端の2つのX線不透過マーカー(14.5 mm間隔)は先端可動部を示すものであり,通常のデタッチャブルコイル用マイクロカテーテルのコイル離脱用2マーカー(30 mm間隔)とは異なるため,ステアリングマイクロカテーテルの近位部マーカーはコイル離脱時の指標とはならない(この欠点の改良は後述).従ってコイルとデリバリーチューブの接続部が先端部マーカーの外に出たことを十分に視認した上でコイル離脱を行った.
コイル塞栓術では常にコイルの脱落・迷入のリスクを伴う.最近ではコイルをカテーテル先端から病変部に出したあとも回収できるデタッチャブルコイルが使用可能となり,またマイクロカテーテルを子カテーテルとして併用するマイクロコイルも登場したため,以前は治療対象となりにくかった血管病変にも比較的安全にコイル塞栓術を施行できるようになった1)
.とはいえ,より短時間で,より安全にコイル塞栓術を行うには単にマイクロカテーテルを用いるのみならず,親カテーテルの安定留置が不可欠である.
ステアリングマイクロカテーテルは,手元ハンドルのダイヤル操作によりカテーテル先端を最大約180°屈曲でき(Fig. 1),急峻に曲がる分枝血管などへの挿入の際に大きな効果をもたらすと思われる.適用可能ガイドワイヤー径は0.018inch以下で,多くのマイクロコイルに対応している.動物実験では従来の先端非可動型マイクロカテーテルとガイドワイヤーを併用した場合に比べ,ステアリングマイクロカテーテル単独使用時は標的血管挿入に要した時間,X線透視時間,造影剤使用量が減少し,その後の臨床治験でも挿入操作に要した時間が短縮したと報告されている2)
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ステアリングマイクロカテーテルの利点は,従来挿入な困難な標的血管への挿入が可能となること,標的血管コイル塞栓術時の親カテーテルの安定留置が可能となること,その結果として操作時間短縮,被爆軽減をも期待できることであろう.
一方,ステアリングマイクロカテーテルの欠点は,先端の2つのマーカーは可動部を示す14.5 mm間隔であるため,近位部マーカーがコイル離脱時の指標にならないことである(通常のデタッチャブルコイル用マイクロカテーテルは30 mm間隔).したがってコイル塞栓術でステアリングマイクロカテーテルを使用する場合には,コイルとデリバリーチューブの接続部がステアリングマイクロカテーテル遠位部の外に出たことを視認してからコイルを離脱する必要がある.本症例で用いたデタッチャブルコイルは,透視下でデリバリーチューブ接続部の視認性は十分に得られたため,この欠点は大きな問題とはならなかった.ステアリングマイクロカテーテルはその後改良され,先端から30 mmの部位にもマーカーが追加されたため,今では上記欠点は解消されている.
ステアリングマイクロカテーテルの保険適用区分は遠位端可動型治療用マイクロカテーテルに区分され,保険償還価格は75,900円である.先端非可動の従来型マイクロカテーテル(デタッチャブルコイル用55,400円)に比し高額に設定されているが,確実性,安全性,低侵襲性の観点から患者利益につながりうる例においてはステアリングマイクロカテーテルの使用が考慮されるべきであろう.また適用可能ガイドワイヤー径が0.018 inch以下であるスタンダードタイプに,セレクティブタイプ(同0.014 inch以下),ハイフロータイプ(同0.025 inch以下)も新たにラインナップに加わり,幅広い用途への応用が期待される.
体肺側副動脈のコイル塞栓術を行う際,親カテーテルの挿入・安定留置にステアリングマイクロカテーテルが有用であった1歳児症例を経験した.ステアリングマイクロカテーテルは従来挿入な困難な標的血管への挿入や親カテーテルの安定留置を可能とし,操作時間短縮,被爆軽減にも貢献する可能性がある.今後,様々な用途への応用が期待される.
本論文の論旨は第28回日本Pediatric Interventional Cardiology学術集会(2017年1月,東京)において発表した.
1) 中西敏雄(班長):循環器病ガイドシリーズ先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン(2014年版).東京,日本循環器学会,2015, pp 49–58
2) 曽山武士:世界初のステアリングマイクロカテーテル.Rad Fan 2015; 13: 33–35
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